地名が類似するのは偶然なの?

 24国配置問題は、実は多くの研究者が調べていた問題です。 実際、倭人伝の国々の比定地図というものがあります。 これは、多くの研究者がそれぞれの説に従って 国名と地名の対応により比定したものを集めた地図です。 そんなにたくさん比定地があるなら、それらをうまく 繋ぎあわせて「次有・・国次有・・国」とすることが できるのではないかと思うことでしょう。 しかし、実際少し調べれば分かりますが、答えは「否」です。

 なぜ、そんなに難しいのでしょうか? それは、簡単な計算によってわかります。 ある地名が2字の国名の類似音を含むような確率は、 ある程度の音韻変化を認めると、郡郷名から計算して ほぼ1/50〜1/100です。 簡単のため一律に、1/70とします。 ある国の比定地域における「主要」地名というと、 せいぜい10くらいで、そのなかに対応する類似地名 がある確率はほぼ1-(69/70)^10=0.134... それが、22個順序良く並ぶ確率は (0.134...)^22 =0.0000000000000000000627... というわけで偶然にはありえないことです。

 こういった比定が難しいために、 多くの研究者は「順序通りではない」という 何の根拠もない「憶測」をしました。 すると、どうなるでしょうか? 22*10個の地名の中に国名に対応する類似地名がある確率は 1-(69/70)^(22*10)=0.957... であり、この範囲から21個もの類似地名を持った 何の根拠もない「比定地」が得られると期待されます。 もっと範囲を広げれば、もっとよく知られた地名のなかから 何の根拠もない「比定地」を得ることができます。 こうして、地名と国名の類似に何らの有意性も持たない 根拠のない勝手な比定案が、数多くできてしまうことになるのです。

 不思議なのは、偶然とは思えない比定案がでてきたといっても、 ほとんど反応がないことです。 この問題に関わる大部分の人がこういった数値に疎いのでしょうか。 あるいは、「邪馬台国というものはここしかない」 という決め付けのもとに、自説に有利な部分だけ引き出そうと する人が多いということでしょうか。 倭人伝のどこを読んでも「日本における先進的な国」とか 「大きな古墳がある国」とか「古墳から鏡が多く出る国」 なんて書いてないと思います。 比定をするだけなのに、なんだかよく分からない方向を 向いているなあという気がします。

 ちなみに、勝手に22国の比定地を順番に決めたとき、 それらの主要地名が偶然どのくらい国名と 類似してしまうのか計算してみましょう。 m=22, x=1-(69/70)^10として (l個以上類似する確率)=\sum_{k=l}^m C(m,k) x^k (1-x)^(m-k) で与えられます。ただし、C(m,k)=m!/k!/(m-k)!

l l個以上の類似確率
0 1.0000000000000000000000
1 0.9578078983209846053741
2 0.8141611321121065816754
3 0.5807469896090356751142
4 0.3399351025660878135295
5 0.1629186862619598245559
6 0.0643002620870116938868
7 0.0210590615263175634010
8 0.0057636312151626090460
9 0.0013254504654100509522
10 0.0002570537965148686518
11 0.0000421134764397285624
12 0.0000058266935867566959
13 0.0000006791276467614866
14 0.0000000663532939135836
15 0.0000000053915941918483
16 0.0000000003600903455436
17 0.0000000000194329042729
18 0.0000000000008265098707
19 0.0000000000000266724206
20 0.0000000000000006138777
21 0.0000000000000000089780
22 0.0000000000000000000627

 出発点と道の選び方などで数百〜数千程度の選択肢が ありそうですから、10個くらい類似するような案が あるかもしれません。けれども、偶然の一致ならば 類似する地名たちは重要度が低いものが多いはずで、 比定地に最も適した地名による類似個数の割合は せいぜい2割程度と考えられます。 これは偶然かどうかの判断基準になるでしょう。

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